大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和50年(ワ)4316号 判決

原告(反訴被告) 株式会社ピロビタン総本社

右代表者代表取締役 芳陵平八郎

右訴訟代理人弁護士 高澤嘉昭

同 吉田孝夫

第一〇六八号事件被告 中川乳機株式会社

右代表者代表取締役 中川浩

第四三一六号事件被告(反訴原告) 中川浩

右被告ら訴訟代理人弁護士 清水建夫

主文

一  原告の被告中川乳機株式会社に対する請求(第一〇六八号事件)及び被告中川浩に対する請求(第四三一六号事件)並びに反訴原告の反訴請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は第一〇六八号事件、第四三一六号事件及び第八九〇四号事件を通じて、これを三分し、その二を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告中川浩(反訴原告)の負担とする。

事実

第一申立

一A  第四三一六号事件(本訴)請求の趣旨

1 被告は原告に対し、金二五〇万円及びこれに対する昭和四七年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

一B  右に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

二  第一〇六八号事件請求の趣旨及びこれに対する答弁

第四三一六号事件請求の趣旨及びそれに対する答弁と同じ(ただし被告は第一〇六八号事件被告を意味する)。

三A  反訴請求の趣旨

1 反訴被告は反訴原告に対し、金三五〇万円及びこれに対する昭和五〇年一〇月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。

との判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求める。

三B  右に対する答弁

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一A  第四三一六号事件(本訴)請求の原因

1 原告は乳酸菌飲料ピロビタンの販売等を主たる業とする株式会社である。

2 原告は被告から、昭和四七年一月二八日別紙目録(一)記載の機械を買い受け(以下第一次売買という。)、その代金三〇〇万円を支払い、また同年四月二二日別紙目録(二)記載の機械を代金五〇〇万円で買い受け(以下第二次売買という。)、その代金内金一五〇万円を支払った。

3(一) 別紙目録(一)一記載の自動洗瓶機(以下本件洗瓶機という。)は、昭和四七年五月二日、原告の指定場所に設置され、同月一五日からその使用が開始されたが、翌六月上旬、水漏れが発見されるに至った。

(二) 右タンクの容積は七〇〇リットル位であるが、一晩たつと水漏れのため、タンク内の水と洗済が約半分以下に減ってしまう有様であった。

(三) この水漏れは右洗瓶機のタンクに穴があいていたことによるが、当初は塗装用ペンキで埋っており、使用開始後約二〇日たって、機械の振動と液体の圧力又は重みでペンキが取れたため、水漏れが生じたものである。したがって原告において取引上通常必要とされる注意を払っても知ることができなかったことが明らかであるから、民法第五七〇条にいう隠れたる瑕疵に該当する。

4 本件洗瓶機の使用を続けながら、被告から再三にわたり修理を受けたが、ついに直らず、被告が引き取らなければ完全な修理は無理なことが判明した。本件洗瓶機はピロビタンの容器洗浄用に購入されたが、毎日の飲用をすすめている商品の性質からいったん製造を開始した以上、これを続行しなければ顧客を失うおそれがある。そこで、被告が引き取って修理するにしても代わりの機械が必要であるが、機械の入れ替えに約四〇日を要する見込であった。

よって原告が本件洗瓶機の売買契約の目的を達することができなかったことは明らかである。

5 そこで原告代表取締役芳陵平八郎は被告に対し、昭和四七年七月ころ、口頭で、本件洗瓶機の売買契約を解除する旨の意思表示をした。

6(一) 原告代表取締役芳陵と被告は、右解除の際、第二次売買を合意解除した。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、原告代表取締役芳陵は被告に対し、前記解除の際、第二次売買を合意解除すべく申し入れたところ、被告は、その後第二次売買の機械を一切納入せず、かつ右機械の納入期限である昭和四七年六月一〇日から三年四か月も経過した昭和五〇年一〇月一三日に原告方に到達した同月九日付内容証明郵便をもってするまで、右機械の納入場所の指示及び残代金の支払を全く求めることなく放置していたのであるから、遅くとも右内容証明郵便を発信する前までに、原告の右申入を黙示に了承し、合意解除に応じたものというべきである。

よって原告は被告に対し、右各解除に伴う原状回復義務の履行として、本件洗瓶機の支払済み代金一〇〇万円及び第二次売買の支払済み代金内金一五〇万円並びに被告の右各金員受領の後である昭和四七年八月一日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

一B  右に対する認否

請求の原因1のうち原告がピロビタンの販売等を主たる業とすることは否認する。同2は認める。同3(一)のうち、本件洗瓶機が昭和四七年五月二日原告の指定場所に設置されたことは認め、その余は不知。同3(二)のうち本件洗瓶機に水漏れがあったことは認め、その余は否認する。ぽとりぽとりと水漏れする程度であったにすぎない。同3(三)は否認する。同4のうち、本件洗瓶機の使用を続けながら、被告が再三にわたり修理したが、ついに直らなかったことは認め、原告が本件洗瓶機の売買契約の目的を達することができなかったとの主張は争う。同5は否認する。ただし原告代表取締役芳陵平八郎が被告に対し、「中古機械はトラブルが多いので今後一切使わないことにした」旨口頭で通告してきたことはあるが、その時期は昭和四七年八月中旬である。同6(一)は否認する。同6(二)のうち、被告が原告に対し、昭和五〇年一〇月一三日に到達した同月九日付内容証明郵便で、第二次売買の機械の納入場所の指示を求めたことは認め、第二次売買の機械を一切納入しなかったこと及び右内容証明郵便をもってするまで右機械の納入場所の指示を求めなかったことは否認する。

一C  抗弁

原告代表取締役芳陵平八郎が被告に対し、「中古機械はトラブルが多いので今後一切使わないことにした」旨口頭で通告してくる前に、原告の社員湯川昇は被告に対し、本件洗瓶機を引き取って修理するよう指示しており、被告はこれに従い、直ちに引き取って修理に着手していた。したがって原告は右指示によって解除権を放棄したものというべきであるから、その後の解除権の行使はできない。

一D  右に対する認否

抗弁事実は否認し、原告が解除権を放棄した旨の主張は争う。

二A  第一〇六八号事件請求の原因

次に追加するほかは第四三一六号事件(本訴)請求の原因と同じ(ただし第一項ないし第六項中被告とある箇所及びよって書中「並びに被告の右各金員受領の後である」と記載されている箇所の被告を、いずれも第四三一六号事件被告中川浩と改める)。

7 第四三一六号事件被告中川浩(以下中川という。)は中古の牛乳処理機械及び酪農器具機械等の販売業を営んでいたが、昭和四九年九月七日、被告会社を設立し、個人としての右営業を同社に譲渡した。つまり、被告会社は、個人としての中川の右営業を引き継いだのであるから、本件第一次及び第二次売買の売主としての地位を承継した。

8 原告は、本訴提起前である昭和四九年一一月一五日、中川個人の営業上の名称である中川牛乳用品店宛に、金二五〇万円の支払を催告する書面を送ったところ、原告は被告会社から、同社が本件第一次及び第二次売買の売主としての地位を有することを前提とする趣旨の同月二六日付回答書を受領した。被告会社は、右書面を原告へ送付することによって、商法第二八条にいう譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨広告したものというべきである。

9 仮に右主張が理由がないとしても、中川は自ら右回答書を書いたのであり、右回答以後も本訴提起まで、被告会社が本件各売買の売主としての地位を有することを前提として、原・被告間で互いに反論し合ったのであるから、本訴提起後になって前言を翻すのは、禁反言の法理または信義則に違反して許されない。

二B  右に対する認否、抗弁及び抗弁に対する認否

請求原因に対する認否として次に追加するほかは、いずれも第四三一六号事件(本訴)請求の原因に対する認否、抗弁及び抗弁に対する認否と同じ(ただし、被告とあるのをいずれも中川と改める)。

請求の原因7のうち中川が中古の牛乳処理機械及び酪農器具機械等の販売業を営んでいたこと及び昭和四九年九月七日被告会社が設立されたことは認め、その余は否認する。同8は認めるが、被告会社が回答書を原告へ送付することによって、商法第二八条にいう広告をしたことに該当する旨の主張は争う。同9は認めるが、禁反言の法理又は信義則に違反する旨の主張は争う。

三A  反訴請求の原因

1 反訴原告は中古の牛乳処理機械及び酪農器具機械等の販売を業とする者である。

2 反訴原告は反訴被告に対し、昭和四七年四月二二日、別紙目録(二)記載の機械を代金五〇〇万円で売り渡した(先の「第二次売買」と同じ)。

よって反訴原告は反訴被告に対し、右売買代金中支払を受けた金一五〇万円を除く残金三五〇万円及びこれに対する反訴状送達の翌日である昭和五〇年一〇月三〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三B  右に対する認否

反訴請求の原因事実は全部認める。

三C  抗弁

1 第四三一六号事件(本訴)請求の原因6(二)(二)で述べたとおり、反訴原・被告間の第二次売買契約は、反訴原・被告が明示または黙示に合意解除した。

2 仮に右主張が認められないとしても、反訴原告が反訴被告に対し、昭和五〇年一〇月一三日到達の書面により、第二次売買の機械の納入場所の指示を求めた時は、既に右売買残代金の支払期限である昭和四七年六月一〇日から二年を経過していた。反訴被告は本訴において右時効を援用する。

3 仮に右主張が認められないとしても、反訴被告の本件残代金三五〇万円の支払義務は、反訴原告の、別紙目録(二)記載の機械を納入し、かつその試運転を経るべき義務と同時履行の関係にあるから、反訴原告が右義務を履行するまで反訴被告は右残金の支払を拒絶するものである。

三D  右に対する認否

抗弁1に対する認否は第四三一六号事件(本訴)請求の原因6(一)(二)に対する認否と同じ(ただし被告、原告とあるのをそれぞれ反訴原・被告と改める)。抗弁2のうち、反訴原告が反訴被告に対し、昭和五〇年一〇月一三日到達の書面により、第二次売買の機械の納入場所の指示を求めたことは認め、残代金の支払期限が昭和四七年六月一〇日であることは否認する。残代金は、反訴原・被告間において、現実に機械が納入かつ試運転されたときに支払われる旨の約定がなされていた。

第三証拠《省略》

理由

第一第四三一六号事件(本訴)について

一  原・被告間において、昭和四七年一月二八日第一次売買契約がなされ、代金三〇〇万円の支払がなされたこと、同年四月二二日第二次売買契約がなされ、代金内金一五〇万円の支払がなされたこと、本件洗瓶機が、同年五月二日、原告の指定場所に設置されたこと、本件洗瓶機の使用開始後に水漏れが生じたこと及び本件洗瓶機の使用継続中被告の方で再三修理したがついに直らなかったことは当事者間に争いがない。

原告が株式会社であること、本件洗瓶機の水漏れは設置後しばらくたって生じたこと、この水漏れは、被告が引き取らなければ、完全な修理は無理であったこと、本件洗瓶機はピロビタンの容器洗浄用に購入されたこと、ピロビタンの製造は、いったん開始した以上、続けなければ顧客を失うおそれがあるため、引取修理の場合には代わりの機械が必要であったこと及び被告がその入替えをするのに約四〇日要する見込であったことについては、弁論の全趣旨により被告において明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

二  《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。

乳酸菌飲料ピロビタンは、その原液製造は近幾ピロビタン製造株式会社が各地の原液工場で行い、その壜詰は各地名を冠してそれぞれ別の法人格である東京ボトリング、札幌ボトリング等の株式会社の工場で行い、その販売を各地の営業所に下請けさせて行うという形式で全国的規模で製造販売されたものであるが、原告は近幾ピロビタン製造から原液を買って各地のボトリングに売って利潤を得ると共に全国的規模での事業総括(例えば、札幌ボトリングは後に原告の直営となったなど)をも行っていたものである。

本件洗瓶機は、昭和四七年五月二日に、原告の指定場所である東京ボトリングの工場に設置された。その四、五日後に一応の試運転がなされた後、同年五月中旬、原告の方から東京ボトリングの工場へ湯川と石川の二人が出向き、本件洗瓶機の調子を見ながら操業を指導した。湯川は二日位、石川は一週間位滞在していたが、その間には機械は大体順調に動いていた。同年六月初めころ、東京ボトリングの工場から湯川に、電話で、振動板が脱落し、洗剤槽から水漏れした旨連絡があったので、湯川は被告にこれを伝え、修理を求めた。被告はこれに応じて、社員の若林と林及び立山化学の電気関係の専門技術者の計三名を派遣し、本件洗瓶機を操業させつつ修理したが、完全には直らなかった。湯川は被告の右修理につき、どこから水漏れしているのかわからず、何度修理しても直らない、機械を止めて調べないと原因がわからないとの連絡を受けた。同年七月上旬、原告は、本件洗瓶機のメーカーである斉藤鉄工で製造された新しい機械を、本件洗瓶機の代わりに据え付けて操業を続け、本件洗瓶機は外に搬出した。同年八月上旬、外では雨が降れば濡れるし、東京ボトリングからも早く何とかしてくれという話があったので、湯川は被告に対し、本件洗瓶機の修理は斉藤鉄工でするのか、被告が持ち帰って修理するのかを電話で尋ねたところ、被告は近いうちに持ち帰って修理する旨答えたので、湯川は修理を依頼した。被告は、この連絡があるまでは斉藤鉄工から新品が代わりに入ったことを知らず、本件洗瓶機はそのまま稼動しているものと思っていた。被告は間もなく本件洗瓶機を持ち帰り、修理に着手した。その後被告は札幌ボトリングの工場が完成したことを業界紙で知った。第二次売買の機械の納入先は札幌ボトリングと約されていたので、驚いた被告は原告代表取締役芳陵に電話して問い合わせたところ、芳陵は「中古の機械はとかくトラブルが多いので使わないことにした。」と述べた。被告は「それでは困る。」と申し入れたところ、芳陵は「湯川と話をするように。」と答えた。

右の通り認定される。原告代表者は、同年六月終わりころから七月初めころ、被告に電話し、「どうしても修理してくれないのならば、斉藤鉄工に新品があるからそれを入れてくれ。もし何もしてくれないのならば、被告の中古の機械はもう買わない。」と申し入れ、その後に原告機械課の小西に対し、東京ボトリングに新しい機械をすぐに入れること及び被告との契約は解除したので本件洗瓶機をすぐに取りに来させ、代金を返還してもらうことを指示した旨供述している。しかし、《証拠省略》によれば、本件第一次、第二次契約締結時から昭和四七年七、八月ころにかけては、湯川が実質上原告の機械課長の仕事をしていて各地のボトリング建設とその指導監督に携っていたこと、右各契約をする前に湯川は被告のところへ機械の下見に行っていること及び昭和四九年一一月に、原告が被告に対し、売買代金返還を催告する内容証明郵便を発信する前、湯川が被告に電話して本件各契約について問い合わせていることがそれぞれ認められ、これに前示のとおり水漏れ発生後は湯川が東京ボトリングと被告との間の連絡に当たっていたことをも考え合わせると少なくとも本件洗瓶機関係については湯川が被告との事務的折衝に当たっていたことが明らかであるにもかかわらず《証拠省略》によれば、湯川が被告に対して本件洗瓶機の引取修理を依頼した際には、湯川は契約解除がなされたことなど全く知らず、昭和四九年一一月ころ、はじめて、解除の問題が原・被告間において生じていたことを知った事実が認められるのであるから、芳陵のいうように、機械課の小西に解除及びそれに関連した指示を与えていたとすれば、何故湯川にその指示が伝わらなかったのか理解に苦しむこととなるのである。さらに昭和四九年一一月になって、はじめて、売買代金の返還を催告する内容証明郵便が、被告に対して発せられたことは芳陵が自認するところであることをも考え合わせると、芳陵の供述のうち前記認定に反する部分は到底信用することはできない。《証拠判断省略》

三  以上の事実を前提とし、本件洗瓶機の解除の成否につき判断することとする。

本件洗瓶機の水漏れの程度につき、証人湯川昇は、七〇〇リットル位の容積のあるタンク内の水と洗剤は、一晩たつと水漏れで約半分以下に減ってしまうという報告を東京ボトリングから受けたと供述し、また原告代表者は、本件洗瓶機はほとんど使い物にならないと斉藤鉄工の人にいわれたと供述しているが、他方証人若林勉は、ぽとんぽとんというふうに一時間当たり一リットルないし二リットル位水漏れしていたにすぎないと供述しており、その供述内容は大きく齟齬している。しかし、前示のとおり、本件洗瓶機は当初はほぼ順調に稼動し、水漏れ発生後も斉藤鉄工の新品に代えられるまで使用されていたのであるし、証人湯川及び原告代表者の右供述がいずれも伝聞に基づくものであることをも考慮すれば、水漏れの量が右両供述にいうとおりの大きさであったことまでは必ずしも心証を惹かないけれども、原告が結局本件洗瓶機を設置後二か月余で新しい機械と入れ替えるに至ったこと及び被告が引き取らなければ完全な修理が無理であったことは前示のとおりであるから、本件洗瓶機に水漏れという瑕疵が存したこと自体は否定できないところである。

そこで本件洗瓶機の解除の成否は、右瑕疵により契約の目的を達することができないといえるかどうかによって決せられることとなるので、次にこれを検討するに、本件洗瓶機の水漏れは被告が引き取らない限り完全に修理することは無理であったこと、ピロビタンは、一旦製造を開始した以上、製造を続行しなければ顧客を失ってしまうおそれがあるため、被告が引き取って修理する場合には代わりの機械が必要であったこと、被告がこの機械の入替えをするのに約四〇日を要する見込みであったこと及び原告は結局本件洗瓶機の代わりに新しい機械を設置させるに至ったことは前示のとおりである。これらの事実をみる限り、本件洗瓶機をもってしては売買の目的を達することができなかったとの判断に導かれよう。

しかし他方、前示のとおり、湯川は、新しい機械を代わりに設置させた後、被告に対して本件洗瓶機の引取修理を依頼したこと、湯川が解除の件を聞いたのはこれよりも後であること及び当時湯川は各地のボトリング建設とその指導監督に携っていたことに加え、原告代表者の供述により認められる次の事実、すなわち原告の最盛期には全国のボトリング工場数は一五程度に達していたこと及び原告は各地ボトリング工場に機械をリースしていたことをも考慮し、さらに《証拠省略》を総合すれば、本件洗瓶機を修理のうえ、他のボトリング工場にリースする等転用する可能性が、客観的にみて十分存したものと認定するのが相当である。(《証拠判断省略》)。しかも、本件洗瓶機は水漏れが生じるまで正常に稼動し、水漏れ発生後も斉藤鉄工の新品に代えられるまで使用されていたことは繰り返し述べたとおりであり、また《証拠省略》を総合すれば、本件洗瓶機は、被告が中古品を購入し、整備のうえ原告に売り渡したものであって、代金は新品の三分の一程度である事実を認めることができるのである。

思うに、本件洗瓶機が中古品であることは、原告において十分承知し、むしろそれを前提として新品に比して格安の値段で購入したのであるから、原告は中古品に不可避的な危険性は当然覚悟すべきである。この見地からすれば、本件洗瓶機は、水漏れ発生以前は正常に稼動し、発生後も操業は続行されていたのであるから、ピロビタンの製造を中断できない事情が存したことを考慮しても、なお、本件洗瓶機を欠陥商品であると決めつけることはできない。しかも、将来他のボトリングにリースする等転用できる見込が客観的に存した状況において、湯川が被告に対し引取修理を依頼した事実を考え合わせれば、本件洗瓶機をもってしては売買の目的を達することができなかったとの原告の主張は、ついにこれを是認することができないのである。

もちろん、昭和四七年八月に、原告代表者が被告に対し、被告の中古品はもう使わないつもりであると述べたこと、さらには今日に至るまで本件洗瓶機の納入先を指示することなく、かえって本訴をもって支払済み代金の返還を求めるに至ったことからすれば、現在では原告においてもはや本件洗瓶機を必要としない事情が存していることを推認するに難くない。しかし、売買の目的は買主の都合ないし主観的意図によって決せられるべきものではないから、右事情をもってしては前記判断を左右するに足りない(なお、原告代表者の右発言後、後記のとおり第二次売買の目的物の一部が原告の指示で納品されたこと及び昭和四九年一一月になってはじめて代金返還請求がなされるに至ったことも考え合わせるべきであろう)。

よって本件洗瓶機の代金一〇〇万円の返還請求は理由がない。

四  次に、第二次売買の合意解除の成否につき判断する。これについては、右売買の目的物中の一つ(目録(二)のうち四番)である熱交換プレート殺菌機の納入について、原・被告双方の立証に対立するところがあるので、その点を主眼として証拠を検討することとしよう。

《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。

昭和四七年四月二二日、原・被告間で第二次売買がなされたが、その際、被告は、訴外近幾ピロビタン製造株式会社(以下訴外会社という。)との間でも、納入期限を同年五月二五日、受渡場所を訴外会社尼崎工場、支払条件を契約日六〇万円、納入試運転後に一四八万円と定め、発酵タンク二七〇〇リットル三台、ストレージタンク五四〇〇リットル一台及びプレートクーラー一〇〇L/H一台を訴外会社に売り渡す契約をした。この契約は、原告会社方で原告代表者・湯川・小西立会のもとになされた。(《証拠判断省略》)

ところで、第二次売買目的物中のプレート殺菌機を被告本人は札幌手稲の工場に納入したと供述するのに対し、証人湯川昇は、手稲の工場に納入された被告の商品は右訴外会社との契約物件中のプレートクーラーである旨供述するのである。

案ずるに、成立に争いない乙第二号証(日通荷物運賃請求書)によれば、昭和四七年一二月五日被告から手稲の「ピロビタン北海道原液工場」宛てに「プレート」一個重量四一〇キログラムの貨物発送がなされたことが認められ、右荷受人は訴外会社札幌原液工場と同視しうるので、問題は「プレート」とあるのが、プレートクーラーの略であるのか熱交換プレート殺菌機の略であるのかであるが、《証拠省略》によれば、プレートクーラーは被告の扱うのは普通一〇〇キロ前後で、四〇〇キロ以上の大型のものは森永・雪印等の大手乳業会社に設置されるが被告としては扱った経験がない一方、熱交換プレート殺菌機は三〇〇キロ以下のものがなく、一時間当り処理能力が一一〇〇リットル(一一〇〇L/H)のものの重量は四一〇キロ位になることが認められるので、前記の手稲の工場に送られた「プレート」は「プレート殺菌機」と認めるのが合理的である。他方、《証拠省略》によれば、昭和四七年五月二三日、被告と訴外会社との前記売買の残代金一四八万円が約束手形によって支払われ、同年八月二〇日、右約束手形が決済された事実を認めることができ、これに、前示のとおり、前記売買においては納入試運転後に残代金一四八万円が支払われる旨約されていたことを考え合わせば、証人北野正夫の証言及び被告本人の供述どおり、同年五月一八日に、前記売買の目的物であるプレートクーラーが訴外会社尼崎工場に納品された事実を認めることができる。さらに昭和四八年二月ころには、原・被告間又は被告訴外会社間でプレート殺菌機又はプレートクーラーを納入すべき債権債務関係は、第二次売買のプレート殺菌機以外には存しなかったことが弁論の全趣旨によって明らかである。したがって前記乙第二号証の「プレート」一個とは、第二次売買のプレート殺菌機であると断ぜざるを得ない。なお、《証拠省略》によれば、被告の原告関係の帳簿上、昭和四八年二月三日に第二次売買のプレート殺菌機が納品された旨処理されているのは、日通から同日宛名先へ到着の連絡を受けて後の記載であると認められ、この事実から、納入は右日時と認められる。もっとも第二次売買の機械の本来の納入先は訴外会社札幌原液工場ではなく札幌ボトリングの工場であったこと及び昭和四七年八月ころ右札幌ボトリングの工場が完成したことは前示のとおりであり、さらに右工場には湯川が昭和化学を通して買ったプレート殺菌機が設置されていることが《証拠省略》によって明らかである。しかし前者については、先に判示した訴外会社と被告と各地ボトリングとの関係並びに《証拠省略》により認められる次の諸事実、すなわちボトリングの工場でなく原液工場へという納入場所の変更及び納入方の指示は訴外会社の小西製造部長から被告に対してなされたこと、右両工場は同じ札幌の手稲にあって直線距離で約五〇〇メートル離れているだけであること、小西及び湯川は第一次、第二次売買、被告訴外会社間の前記売買の締結前に被告を訪れて機械の下見をし、原告代表者に稟議書を書いて提出したこと、被告が大阪に行き、右各売買をした際、原告代表者に被告を紹介したのは小西であること、被告が原告と取引するに至ったのは、以前取引のあった大阪の黒川牛乳にいて知合いであった小西が訴外会社に移り、その口聞きがあったことによること及び湯川は訴外会社の製品管理課長であったが、原告への辞令の出る前から右各売買の準備行為をはじめとして原告の機械課長の仕事をしていたこと(なおその真偽は別として、原告代表者が、被告との契約を解除した際、そのことを小西に告げて、東京ボトリングへすぐ別の機械を入れるよう指示した旨供述していることも、小西の両会社に跨る特殊な立場を物語るものであろう。)を考慮すれば、別段前記認定の障害となるものではない。また後者については、プレート殺菌機はボトリング工場でも原液工場でも使われるものである事実が被告本人訊問の結果により認められること(《証拠判断省略》)からすれば、これも前記認定を左右するに足りるものではない。

《証拠判断省略》

そこで合意解除の事実の有無につき判断するに、原告代表者及び証人湯川昇の供述中には、原告の主張に副う部分があるが、前示のとおり、昭和四八年二月には第二次売買の目的物件中プレート殺菌機が原告の指示により納品されたこと、原告主張の合意解除の時期より二年余も経過した昭和四九年一一月になってはじめて代金返還請求をするに至ったこと及び既に判断したとおりもともと本件洗瓶機の解除は理由がなかったことを考えて被告本人訊問の供述に照らせば、右供述はたやすく信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

黙示の合意解除の成否については、既に認定した昭和四七年八月に原告代表者が被告に対しキャンセルを通告してから昭和四八年二月にプレート殺菌機が原告の指示場所に納入された経緯及び原告が被告に対して代金返還を求めるに至った経過を考えれば、到底その成立を認めることはできない。

よって原告の請求は理由がない。

第二第一〇六八号事件について

原告の被告会社に対する請求は、本件洗瓶機の売買の解除及び第二次売買の合意解除を前提とするところ、既に述べたとおり、本件洗瓶機をもってしては売買の目的を達することができなかったこと、第二次売買が合意解除されたことは、いずれも認めることができないのであるから、その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。

第三反訴について

反訴請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

抗弁事実中、反訴原・被告間の合意解除の事実を認めることができないことは既に述べたとおりである。

そこで消滅時効の点につき判断するに、《証拠省略》によれば、第二次売買において、納入期限は昭和四七年六月一〇日、残代金支払時期は納入試運転時と約された事実が認められる。したがって残代金支払時期は現実に納入試運転がなされたときであり、反訴原告が納入するには反訴被告の指示がなされることが必要であることは明らかであるが、反訴原告とすれば、自己の債務の履行の提供をすれば代金債権の請求をすることが可能であるから、右は反訴原告の代金債権を行使するについての法律的な障害とは認められず、反訴原告は、納入期限である昭和四七年六月一〇日から自己の権利を行使することが可能であったものというべきである。もっとも、昭和四八年二月三日にプレート殺菌機が納入されたことは前示のとおりであるが、遅くともこのときからさらに二年を経過した昭和五〇年二月三日には、反訴原告の残代金債権につき消滅時効が完成したものと認めてよい。そして反訴被告は右時効を援用する旨を明らかにしている。

そうすると、反訴原告の残代金債権を求める本件反訴は結局理由なきに帰するものといわなければならない。

第四結論

以上の次第であるから、原告の被告中川及び被告会社に対する各請求(第四三一六号、第一〇六八号各事件)並びに反訴原告の反訴請求(第八九〇四号事件)はすべて失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例